No.454 / A Hard Day's Night.....4



1964年7月10日....アルバム「A Hard Day's Night」が発売されました。


このアルバムから全曲オリジナルになり、アメリカ制覇や映画撮影、ライヴにラジオ出演と.....このクソ忙しい中どんどん新曲を書き上げる事のできた絶好調ぶりが伺えますね。


サウンド面から検証をさせて戴くと
とにかくサウンドがすっきりはっきりしてヴォーカル、楽器の分離が良くなりました。


実はこのアルバムから最新録音機材による4トラック録音がスタートしたのです。
実際は1963年の 10/17 の「I Want To Hold Your Hand」のレコーディングから採用。


4トラック録音により最初にベーシック・リズム・トラックを録音し、その後ヴォーカルや楽器を足して行く事ができます。
より複雑なオーヴァーダビングや編集作業が可能となり脅威のスタジオ・バンドとしてのザ・ビートルズのスタートにもなりました。


では1曲づつ勝手に独断と偏見を持って検証してみたいと思います。



1...A HARD DAY'S NIGHT


ジャ〜〜〜〜〜〜〜ン!
正に新しい時代の幕開けに相応しいサウンドですね。
コードは Gsus4onF って言うか Dmsus4-7thって感じでしょうか?
ジョンの J-160E、ジョージのリッケン12弦360−12とポールのへフナー・ヴァオイリン・ベースにピアノの音で構成されています。
ギター1本で再現すると
1弦3フレット
2弦1フレット
3〜5弦開放
6弦1フレット...........って感じでしょうかね?


このアルバムのサウンドを決定付けているのがジョンの Gibson J-160E とジョージの新兵器リッケンバッカー360-12 ですね。



この映画を観てバーズのロジャー・マッギンも映画の会場で観客としてエキストラで出演していたフィル・コリンズも人生が変わってしまいましたねっ!(笑)



ジョンのいつもながら歯切れの良いストロークはドラムがオフ気味になっているこの曲のリズムをしっかりとリードしていますし、ジョージはイントロに続きバッキングではジョンとは逆の裏のビートで支えています。エンディングのアルペジオも効果的ですね。
目立たない所ではポールもサビの自分が歌うパートの Em の所で得意の和音弾きを披露しています。
ここのジョンとポールのヴォーカルが急に入れ替わる所がスリリングでまたそこにジョンが戻って来るって所が超強力なフロントマンが二人いるビートルズの強みであり魅力になっています。




間奏のソロに関してもネット上で新説が出ていますね。


従来の説:テープ・スピードを通常の半分のスピードでジョージ・マーティンが録音し、ジョージ・ハリソンリッケンバッカー12弦を普通のテンポで録音した。
というものが定説でした......が!


新説:エンジニアのジェフ・エメリックによればジョージ・ハリソンの調子が悪く、何度試みてもソロが決まらなかったためテープ・スピードを半分に落としゆっくり録音したそうです。4トラックの空きが1つしかなくギターとピアノを同時に演奏したそうです。しかも更に発見がジョージは今までの定説でのリッケン12弦を使用しておらず、普通の6弦ギターを使用したらしい。確かに「A HARD DAY'S NIGHT」の初期録音の音源を持っていますがジョージのこの世のものとは思えないソロが聴けます!(爆)しかし録音の1ヶ月後のアメリカン・ツアーのライヴを聴くとリッケン12弦できちんとソロを決めています。ジョージしっかり練習したようですね。(笑)
リッケンバッカー12弦ギターは私も弾いた事がありますがとにかく弾きにくいです。3弦〜6弦がオクターブになっておりジョージはギターとピアノをハーフ・スピードで同時録音して通常のスピードで再生する事で音のイメージが変わるため12弦ギター1本で弾いた様に聞こえる効果を狙ったのかもしれませんね。


2...I SHOULD HAVE KNOWN BETTER


ジョンレノンここにありっ!って曲の代表的な1曲。
ハーモニカの後いきなり "Ah~~~~"でやられます!ジョンにしてはかなりキーの高い曲ですが彼の声の魅力を十分味わえる名曲。
基本的にヴォーカルはダブルトラッキングですがサビの一部だけシングルトラックになっています。もともとシングルで歌っても倍音のたくさん出る声質なので十分ですね。


0:19の "Hey,Hey,Hey"
0:54のかすれた "Oh~oh"
1:00の "Hahaha~~"
1:15の "before"の "fore"
1:19の ”Give Me More" の "More".....etc.
ジョンの哀愁たっぷりの堪らない男でも感じてしまうセクシーな声満載です。


ギターも Gibson J-160E が左チャンネルからリンゴのハイハットと重なり素晴らしいアップ・ストロークを披露しています。
間奏もジョンのヤクザなハーモニカとジョージのリッケンバッカー12弦のコラボで、途中からのダブル・ノートと最後の決めのコードが洒落ています。
0:40 からのドローン・コードも非常に効果的です。


映画では列車の中での演奏シーン(パティーめちゃカワイイ〜!)と最後のステージでも披露されました。


3...IF I FELL


出ましたっ!ビートルズ史上最も素晴らしいジョンとポールのデュエット曲。
ジョンとポールの要求で1本のマイクでデュエットを録音したようだ。


イントロからジョンの切り気味のダウンストロークとジョージのドローン・コードに支えられた至福の17秒!
どうですかっ?このクールさっ!と言ったらないでしょ?



0:14 からの Em7からロー・コードに切り替え1,3 弦の開放弦を響かせるセンスの良さっ!
そして 0:18 からポールが絡んで来る事で始まる幸せの極地!
たまりませんっ!


曲のキーは D ですが E♭mから始まる不思議なスタート。
しかもここだけしか存在しないメロディー。
デュエットからの D コードはビートルズ・コードの4弦4フレットの F# を必ず押さえて下さいね。この時のジョンのハモリがこの音なので歌いやすくなります。これは映画の中でも確認できます。


リマスターCDになった事で昔から聞き慣れた1:44でのポールの苦しそうな "was in vain~" が復活採用されました。色々な文献を見るとキーが高く声が出ていないとあるが、私は1本のマイクでジョンと向かい合って歌う事でジョンが変な顔をしたためポールが笑いをこらえて変になったと診ている。あくまで勝手な推察ですが。音としては G(ソ)なのでポールならこの曲でも他で楽に出しているからね....


4トラックになったといってもビートルズ実質は基本ライヴ録音が多く楽器とヴォーカルの同時録音が多くこの曲の複雑極まるコーラスもいかにビートルズが歌も演奏も上手かったかを証明すると思う。


エンディングの D コードでジョージの7フレット2〜3弦によるハーモニクスも効果的で素晴らしいね。


4...I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU


ジョン作のこのアルバム唯一のジョージのヴォーカル曲。
このパターンは「Do You Want To Know A Secret」に続き2曲目。
映画でもスタジオでジョージが Gibson J-160E を弾きポールの笑顔が印象的な1曲でした。


しかしジョージの声にぴったりのメロディアスな名曲です。
当初はジョンがヴォーカルをとる予定だったが何らかの理由でジョージに渡す。ジョンが歌うには多少甘過ぎたのかな?
でもジョンのヴォーカルでも聴いてみたかった!



この曲の聴き所は何と言ってもジョンが弾くリッケンバッカー325の独特のカッティングとポールとの "Oh~Oh" と言うコーラスである。
このカッティングやってみると意外に難しいですよっ!
チャッチャカラッチャ、チャチャラッチャ!の繰り返し。
やはりこのカッティングをキープしながらこの曲は歌えないわっ!(笑)


オープニングのコードはC#m-F#m-G#7の繰り返しだが
最初のC#mは1弦の開放と2弦5フレットで同じ音を2本の弦で響かせる事で奇麗なコーラス効果が生まれる。


"I Don't Wanna Kiss~"からドンッ!ドンッ!と重いタムの音が入るが今回のリマスターで更に重く生々しい音が響く。
リンゴはシンバルを叩き続けているので後からフロア・タムを緩めてダビングしたと思われる。


ポールもジョージが歌う歌の特徴でベースはメロディアスでフレーズも多く弾き倒している。


しかしコードもビートルズの特徴の6th や7th、augなど色々と凝ったコードを使用していますね。


5...AND I LOVE HER


アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」におけるポール作の3曲の内の1曲。


[:W300]


2/25 に 2 テイク
2/26 に 17 テイク録音したが結局ボツ。
当初のアレンジはジョンのアコースティック・ギターにポールのベース、ジョージのエレキ・ギターにリンゴのドラムでもっとバンド・サウンドだった。(アンソロジー1に収録)


2/27にアレンジを変え2テイクで完成。


左チャンネルから聞こえるジョンのGibson J-160E の音色も素晴らしいし、ストロークも歯切れが良く強弱を上手く使っていますね。
淡々と曲全体を引っ張っています。
1:03 秒の B コードは最初7フレットの B コードですがすぐに次の小節は2フレットの B コードに弾き分けています。


「えへっ!見かけによらず繊細でしょ?」by JOHN


もう一つの主役はジョージの弾くクラッシック・ギターです。



ジョージは1964年に収録されたインタヴューで「クラッシック・ギターを上手に弾ける様になる事が一つの夢である」と語っている。
カントリー・ギタリストの巨匠チェット・アトキンスが大好きだったジョージだが、クラッシック会ではセゴヴィアがアイドルだったようである。


この時ジョージが使用したのはホセ・ラミレス/Jose Ramirez の Guitarra de Estudio と言うスペイン製のクラッシック・ギターです。




ジョージのギターが製造された当時はホセ・ラミレス3世が家業を継いでいたようです。



このギターの特徴として高音側1〜3弦の指板が1フレット多く足されています。
表板はスプルース。
サイド&バックはローズ・ウッドを使用しています。


[:W300]



ジョージはこのギターをロンドンのラスボーン・プレイスのあったアイヴォー・マイランツのギター・ショップで入手した模様(若かりし頃のポールもここで Zenith のギターを買った)。




映画の演奏シーンではラミレス・ギターのサウンド・ホールの中のラベルが大きくクローズ・アップされていたのが印象的です。


0:30 秒からの高音部でのアルペジオは中学生の時、豊橋の達っちゃんおじさんから貰ったガット・ギターできちんとコピーした最初のビートルズ曲として思い出深いパートですね。


ポールのベースは最初から2音(ルートと5度)のコード弾きです。


ジョンの影響か?この曲のポールのヴォーカルは甘ったるい部分が全くなく非常にクールでドライに歌い上げています。ここを勘違いして砂糖まみれのでれでれバラードにして歌ってしまう人がいますがこのアルバム全体を貫いているクールでドライなトーンや質感を全く理解していないと思い残念ですね。


ギター・ソロから半音上げの転調をしビートルズ得意の6th コードを散りばめ最後はばっさりとDメジャーコードで決める彼らが頼もしいですね。


6...TELL ME WHY


映画のハイライト!最後のステージのオープニング・ナンバーです。


とにかく大好きな1曲!
ジョンにとってはキーの高い曲ですね。
映画の構成上「アップテンポの曲がもう1曲欲しいと言われその場で一気に書いた!」とジョンは簡単に言っていますが.....流石っ!



ようやくアコースティック楽器なしのエレキ・バンド、ザ・ビートルズ登場〜!って感じですね。


歌詞は去って行く女性に「何故だか教えてくれ〜っ!(泣)って感じですが対照的にこのアップテンポでひたすら3人で元気に歌い倒す所が何ともカッコいいです。


聴き所は1:25 秒から D7のコードをリッケンバッカーで3連を掻きならし、さらに 1:33 秒 から全員でのファルセットで一気に畳み掛ける所ですね。その後のリンゴのドッドッドッドッドッドッ〜♪も最高ですっ!
中学生時代ここが聴きたくてそろそろ来るぞ!来るぞ〜っ!....来た〜っ!って感じでワクワクしながら待っていたのを思い出しましたね。


エンディングのコード進行もカッコ良く、Bm〜B♭7〜Asus4/A6〜Dで決まりっ!
一度ライヴ・バージョンを聴いてみたかった〜っ!(泣)


7...CAN'T BUY ME LOVE


さあ A 面最後の曲になりました。
LP レコード時代最後のこの曲になると音が少し歪んで来て音が悪くなるのが残念でした。


ビートルズ得意のいきなりポールのヴォーカルから入る代表的な1曲!ドキッ!
この時期のバンドの勢いを感じさせる逸品!



楽器ではジョンのGibson J-160E がリンゴのドラム以上にこの曲のリズムをリードし支配しています。
本当にストロークでノリを出すのが上手いギタリストですよね〜っ♪
全体的に「Help」のサビの立て乗りのリズムですね。


テーマの "Buy Me Love〜♪" の所だけ右チャンネルからジャ!ジャーン!とジョージのリッケンバッカー12弦 360-12 が活躍しアクセントを付けています。
ここのコード進行ですが Em7-Am7ーEm7ーAm7ーDm7〜と来て次にやはり G の6th が来ましたっ!やはりビートルズ随所に 6th が隠し味で出てきます。


リード・ギターはダブルトラッキングで楽器はグレッチのカントリー・ジェントルマンか?
1:18 秒に左チャンネルから一瞬だけ12弦で絡んで来るギターがやたらカッコ良い!
ロックです!


1964年1/29 に録音されたこの曲。
驚く事にビートルズはわずか4テイクで録り終えたそうです。
トータルで約1時間弱!


第1〜2テイクはジョンとジョージによるブルージーなコーラスが付いていました(第2テイクがアンソロジー1に収録)。
海賊盤の最初期のCD「Ultra Rare Tracks」で初めてこのアウトテイクを聴いた時は本当にびっくりしたのを思い出しましたね。


2/25 にジョージのリード・ギターとポールのヴォーカルがオーバーダビングされ完成!


この曲でポールの才能が発芽したように思えます。


そしてジョンはこのアルバムでピークを迎え後は段々と........


つづく.......


「ふふふっ.....そろそろ俺の時代だぜっ.....」by Paul


参照:
No.451 / A Hard Day's Night - Outsider Records!
No.452 / A Hard Day's Night.....2 - Outsider Records!
No.453 / A Hard Day's Night.....3 - Outsider Records!